【第五章】

 億劫な秋がやってきた。私達の愛は揺らがないものだったが、それでも周りの視線が怖くなった。やれやれ、たかだかクラスメイトじゃないか。ただの他人だぞと自分に言い聞かせるが、それでも自分の中での恐怖、そして希死念慮きしねんりょは増していくばかりで、でも、そうするとひなを残すことになる事が嫌でもわかり、それでまた憂鬱な気分になっていった。
 ひなは相変わらず明るく振る舞っていたし、(この秋と言う季節の中では)自殺と言う選択肢は提示してこなかった。それどころか強く生きるかのように立ち回っていた。
 そんなひなの本音を知ったのが十一月の後半、何気ない休日だった。
「みくりちゃん、提案があるの」とひなが珍しく真剣な顔をしているので私は「どうしたの?」としか返せずひなの次の言葉を待っていた。
「二人で死んじゃおっか」と笑顔でひなは話すもので、私は呆気にとられてしまった。そこで私は打ち解けた、秋にずっと考えていた事を。そして、二人で決意した。――幸せに勝ち逃げをしよう。

 そうして、私達は死ぬための準備を始めた。死ぬためにはまず身辺整理がつきものだからだ。そしてそれらしい遺言も残すことにした。これは理解のない人に対する挑発文にもなった。
 自殺を仄めかす必要はなかった、あくまでも私達は勝ち逃げをしてしまうために死ぬのであって、不幸に死ぬわけではないのだから。
 私は死ぬ方法を調べた。同時に死ぬとして一番確実なのは首吊りだろう。ハングマンズノットと言う結び方を知った。何回か結び方を練習し、強度に関しても色々な文献を調査して、実証して、うまく行けると確信した。
 そして私とひなは最後の冬を共に過ごした。二年にも満たない生活だったが、とても充実した人生だった。あぁ、これでずっと二人で居られるんだと思いながら毎日を寝て過ごした。
 ――結果としては私の敗北で終わるのだが。

 私は、初夏の陽気に包まれた今日、今度こそ死のうと思う。ひなの所に早く行きたいのだ。私だけがのうのうと生きていてはならないのだ。
 さて、ここで筆を置くことにしよう。この文章を誰が読むかはわからないが、私達の物語はこうして終わっていくのだ。終わらせたのは何者でもない、君達なのだからと。
 完全に理解しろとは言わない。だけど、お願いだから否定はしないで欲しい。するなとは言わないけど、声には出さないで欲しい。それだけで私達のような人々は救われるのだから。
 ひな、待っててね。もうすぐ行くから。それじゃ。

 ――憂節みくり。

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2023 Minase Liu / Lunachi