Mikuri Ukihushi

ひなの為に、私は生きてきたんだ。

憂節うきふしみくり

――生きると言う事は絶望を歩むことである。

 5月15日生まれ、A型。
 黒髪ロングヘアをなびかせるおとなしい少女。
 真面目そうに見えるが中身はメンヘラで依存心が高く、付き合ってからはひなに縋るように生きてきた。

 愛されることを知らずに生きてきた為、愛情の示し方が不器用。
 ひなの影響を受けやすく、わりと言いなりになっている所もある。

サイドストーリー

――想いを伝える事こそが一番のプレゼント。

 憂節みくりは悩んでいた。恋人であるひなの誕生日プレゼントについてである。みくりはこの手の物に疎いため、何をプレゼントすれば良いのかわからないのだ。
 ひなの好物については知っている。コーヒーだ。なのだが、ひなはコーヒーを選ぶ人間で、外出先でチェーンのコーヒー店に立ち寄る際は「美味しくないから」と言う理由でよくココアやジュースなどを選ぶし、みくりからすれば何が美味しくて満足するコーヒーなのか一切合切わからないのである。
 そうこうしているうちに一週間を切り、迷いに迷ったみくりはコーヒー豆専門店を探しに探し、近所にある一軒を選ぶことにした。とは言っても一駅以上は離れている距離なのだが。
 店に入るとコーヒー豆の焙煎された香りがみくりを包み込み、みくりは安心感を覚えた。ひなは家を出る前に決まってコーヒーを淹れて飲んでくるものだから、その香りを彷彿とさせるのである。
「いらっしゃいませ」と店員が微笑みながらお辞儀をする。みくりも「こんにちは」と軽く会釈をすると店を見渡した。所狭しとコーヒー豆が並んでいる店内はみくりにとっては未知の世界だった。どの豆が良いかどうかではなく、些細な色の違いですらみくりには理解が出来なかった。
 諦めよう、他のものにしようと苦笑いするとみくりは店を出ようとする。と、した所に先程の店員が声をかけてくる。「よかったら試飲どうですか?」と聞かれたのでみくりは黙って頷き小さいカップに入ったコーヒーを飲んだ。
 はっきり言って、美味しい以外の感想は出なかった。それほどまでにみくりはコーヒーに疎い。やはりダメだと思いながらコーヒーを飲み干すと店員はカップを受け取り「何かお探しですか?」とみくりに聞く。「いえ、プレゼントにって思ったんですけど相手の好みもわからないし私も疎いので」と返す。すると店員はなるほどと言った感じで頷き「どう言った相手で、ご予算はお決まりですか?」と返してきたのであった。

 数分後、みくりは席に座ってコーヒーを待っていた。店員が少し待つようにと店内の一角にある椅子に案内したのであった。
「おまたせしました」と店員がコーヒーを持ってきた。さて、なぜこうしてみくりが席に座ってコーヒーを待つかと言えば、少し前の会話になる。
「同い年の……恋人にプレゼントしようと思ってるんです」とみくりが店員に説明すると店員は「その人の他の好きな物――例えば飲み物とかありますか?」と聞くので「オレンジジュースとかよく飲んでますね」と返す。「わかりました」と店員は頷くと「少し見繕ってみましょうか?」と言う。みくりは驚いた表情をする。これだけの情報でコーヒーが選べるものなのだろうか?と。

 そうして出されたコーヒーを飲んでいく。「このコーヒーはフルーティーな味わいがするんです。ゆっくり飲んでみてください、酸味の奥に甘みがあるのがわかりませんか?」と店員が言うのでみくりはコーヒーを舌の上で転がす。二口、三口と飲んでいくとようやく酸味の奥にある甘みに気付く。コーヒーとは苦いもの、と言う固定概念だけがあったのだが、このコーヒーには苦味と言う概念が(あるにはあるのだが、このコーヒーにおいては苦味という強い主張が)あまりなく、別の飲み物を飲んでいるような感覚だった。フルーティーと言う意味もようやく意味が理解出来た。
 みくりはコーヒーを飲みきり頷くと「これ、ください」と店員に伝えると店員はレジに誘導する。そうしてみくりはひなの為にプレゼントを入手することが出来た。

 そうしてやってきた誕生日。みくりの部屋でひなの誕生日を祝いながらみくりは恐る恐るコーヒー豆を取り出し「これ、お口に合うかはわからないけど」となぜか堅苦しくなりながらひなに手渡す。「コーヒー!嬉しい!早速飲んで良い?」とひなは喜びながら台所へ向かう。遊ぶたびにひなはコーヒーを淹れる物だからみくりの部屋にも一式が揃っているのである。
 ひなは豆の匂いを嗅ぎ一旦台所に置くとみくりの所に向かうとみくりを思い切り抱きしめる。「凄い好きな香り!ありがと!」とみくりの胸に顔を埋める。みくりはようやく安心し、ひなを抱き返す。「まだ飲んでないんだからさ」とみくりは笑うとひなは「淹れないとね」と台所に戻る。五分後、淹れ終わったコーヒーをひなはゆっくりと飲みだした。
「おいしい――」とひなは呟くと熱いコーヒーを一分足らずで飲み干してしまった。そしてまたみくりの胸に顔を埋めると「大好き」と呟くのであった。